悲鳴伝はまったく新しいヒーロー物語

感動しない少年が主人公の話なのですが、王道ではない邪道のヒーロー物語といった感じです。主人公はヒーローとは程遠い性格の持ち主で、非常な選択を普通に下せる人間です。そんな性格の少年が主人公なのですから、世界を救おうといった感じの話ではないです。

敵に対抗できる稀有な人物であるがゆえに人類を守る組織の思惑に巻き込まれ、自分の意思とは無関係に事態に対応していきます。この組織は人類を守ることを目的にしているはずなのに根っからの善人はほとんどいなくて、唯一自らの正義を貫いているのがヒロインです。このヒロインだけが本物のヒーローだと読んでいて感じました。

物語全体の空気は殺伐としており、ほぼ味方同士で潰しあっていて、完全にヒーロー像を皮肉っています。非常に西尾維新さんらしい話で、見たことのないヒーロー像にワクワクしたものです。

冒頭から人類の半分が死んだという衝撃展開から始まるにも関わらず、主人公はごくごく普通に日常を過ごしていたのです。ここまで主人公らしくない主人公も珍しく、作者曰く「まったく新しいタイプの主人公」とのことですが、まさにそのとおりだと思います。

私はいくつかの小説を読んできましたが、ここまで冷淡で非常な主人公はあまり見たことがないです。ですが少年である以上、どこかに子供らしい一面も残していて、ただ狂っているだけのキャラクターになっていないところが西尾維新さんのすごいところです。

感情が動かないキャラをこれほどまでに魅力的に書けるなんて、本当にすごいなと思います。