劇画ゴルバチョフ

ペレストロイカ、東西融和の折に世に出された、あのゴルバチョフ氏の伝記漫画です。作者は「ゴルゴ13」などであまりにも有名なさいとう たかを氏、発行は読売新聞社と、表記だけでどれだけの気合いが入った企画かも容易に分かるほどです。

当代随一の「政治漫画」でもあるゴルゴ13をものにしたさいとう氏の筆だけに、内容は極めて充実しており、幼少期のゴルバチョフ氏が靴が買えずに危うく進学を断念しかけたというエピソードや、大学時代、同盟国から来た留学生と交流していたというだけの理由で秘密警察から聴取を受けていたことなど、様々なお話が情感たっぷりに語られています。こうした経歴を見るとゴルバチョフ氏が何故あそこまで情報公開や透明性の確保に力を入れていたのかが何となく分かりますし、農家の出身で農業理論の専門家でもあったために出世のきっかけを作った彼にとって、重要なのは軍事的な威容、力量ではなく、広大な土地をまったく有効活用できずにいたソ連の農政の立て直しであり、経済の発展だったのだな、ということが改めて理解できます。

現代のロシアは、冷徹なほどの有能さを誇るプーチン氏のもと、まるで先祖返りしたかのような強権と軍事力を誇示する国家になっている感がありますが、「ゴルバチョフ路線」が継承されていれば、今頃日本とロシアの関係は、そして世界情勢はまったく違っていたものになっていたかも、と思わせるほどの内容が本書には記されています。一冊限りで漫画としては短編の部類に入りますが、内容は過不足なく伝記として実に優れています。