惡の華

今まで沢山の漫画を読んできましたが、押見修造氏の「惡の華」ほど心を抉られた作品はありません。

「惡の華」のストーリーとしては、中学生の登場人物たちが思春期特有のこじらせた苛立ちや将来への不安などがドロドロとした形で描かれており、登場人物の台詞一つ一つと表情が印象的に語りかけてきます。

主人公は中学生の春日高男が、クラスの優等生で美少女の佐伯奈々子に恋心を抱いているのですが、ある日の放課後に出来ごころで佐伯の体操服を盗んでしまいます。その場面を目撃していたのが仲村佐和であり、仲村は盗んだことをばらされたくなかったら自分とある取引をしろと春日に迫ることからストーリーが始まります。

後にこのようなストーリーの始まり方から想像出来ないような展開へどんどん泥沼のように三人がハマっていきます。

この登場人物三人全員が形がそれぞれ違うものの、思春期特有のアイデンティティーの確立に悩み揺れ動いており、世の中への不満や周りの大人たちへの不信、田舎特有の閉塞感などから抗いたい気持ちを持っています。

仲村は特にその象徴ともいえる存在で、彼女の目には周りの全てが「クソムシ」に見えています。彼女にとってはこの世の常識や社会規範そのものが鬱陶しいものであり、それに従っている大人や同級生たちに敵意をむき出しにして周りと一切協調しようとしません。

主人公の春日はそのような常識や社会規範に鬱屈した思いを持ちながらも仲村ほど突き抜けることも出来ず、他人と違う自分を見出そうと他人が読まない様な難しい本を読んで、自分は周りと違う高尚な人間だと思いたがっています。

最後に佐伯は勉強も出来、人当たりも良く、絵に描いたような優等生としてクラスの中心にいてますが、一方で周りに合わせて生きてきたために自分がしたいことが分からなくなり、とても鬱屈した気持ちを抱えていることが中盤になって分かります。

この三人の織り成す人間関係がジェットコースターのように展開していくさまがこの漫画の見どころです。

個人的には、佐伯が春日と仲村に曝け出すシーンが一番の見ものだと思っています。普段優等生を演じ、自分を抑えている人間ほど追いつめられるとブレーキが利かないところまで暴走する様がこれでもかと描かれています。

仲村も最初から最後まで、自分をこの閉塞感から救ってくれるものをずっと探し続けており、春日と共にその閉塞感の「向こう側」にたどり着く為に二人でどんどん暴走していきます。

最終的には仲村と春日が暴走した結果、大波乱で幕引きをするのですが、この中学生編の後に春日が高校生になった高校生編も続きとして描かれます。

この高校生編も中学生編とは違う良さがあり、個人的には大好きです。

ジェットコースターのような中学生編ほどの展開はないのですが、春日がしっかりと過去と向き合い、少しずつ新しい未来への可能性をつかもうとする姿は本当に応援したくなる気持ちで一杯でした。

仲村に置いていかれた春日と仲村の対峙、高校生編で春日の恋人となった常磐文、この三人のやりとりが心に響きます。

最後の終わり方も非常に心地いい切なさで読み終わった後にジーンとノスタルジーのようなものを感じました。

押見修造氏の漫画はいくつか読みましたが、この「惡の華」は作者の作品の中でも一番の名著だと思っています。

作者コメントでもありましたが、こじらせた思春期を経験した人には是非とも読んでもらいたい作品です。